ゾウとパラソル


by てんてんこまる
 ゾウは、と言えば、クリームイエローのとても身軽な、サーカスの花形スタ
ーにでもなれそうなほど、身軽なゾウが1ぴき。うら若き乙女。ドレスは、ピ
ンク。
 パラソルはパラソルで、姉のアンブレラとは性格が違う。お天気屋のハイミ
セス。でも、その白い足に若い男たちの視線はくぎづけ。
 ゾウとパラソルはいつも一緒。今日も、カフェの色男たちは彼女たちの気を
ひくプレゼントを考え中。先週のイタリアンスーツ男がくれたピンクパールの
ネックレスはちょっと気が利いていたけれど、自分のおうちのトイレのスリッ
パにつけたらかわいいと思いついて、案外器用なゾウは自分でそれを縫い付け
た。とてもけっさくだった。
 パラソルにいつも絹の靴下を買ってくれる紳士は、彼女がサンダルを履く時
に、留め金を止める役目を許されてはいたが、その美しい足のつけねにあるガ
ータベルトに触れさせてはもらえなかった。
 彼女たちは姿かたちこそは、似ても似つかなかったけれども、性格はどこと
なく似ていて、自分のことは大好きだったが、相手のことは大嫌いだった。お
互いがお互いを惹き立てあって、彼女たちはより美しく光るのだ。
 でもそんなことはどこにでもよくあることのひとつ。
 ある時、彼女たちは2人で、銀行に今日のショッピングのためにお金をおろ
しに行った。今月はちょっと使いすぎていた。まだ早い時間だったので、向か
いのコーヒーショップで、ホットドックとカフェ・オ・レで、食事をすまそう
ということになって、道を渡り始めた時だった。ピストルの音がして、背の高
い男が銀行から飛び出してきた。あっという間に彼女たちは人質にされ、止ま
っていた赤いコンパーチブルに乗せられて、走り去ってしまった。
 銀行強盗は、港までたどり着くと、倉庫に隠れていたが逃げ場所がなくなっ
てしまった。2人とも、その恋に落ちてしまうことは、はじめからわかりきっ
ていたことだった。パラソルは、体にロープを縛り付けると、勇気を振り絞っ
て、飛んだ。人前で傘を開いてみせることなんて彼女にとっては、屈辱だった
が、その時は、恥ずかしくなかった。そして、船にたどり着いた彼女がしっか
りと船にロープを縛り付けると、今度はゾウが銀行強盗を抱えると、まさにサ
ーカスの花形スターのよう鮮やかに、船へと飛んだ。ご自慢のドレスは、船に
飛び移る時に引っかかって破けてしまったが、そんなことは、もう気にしなか
った。船は、港を離れた。
 パラソルはサンダルも絹の靴下も脱ぎ捨ててしまい、ゾウだってピンクのド
レスを脱ぎ捨てて生きていく。その恋の結末は誰にも分からないけれど。
 でもそんなことは、どこにでもよくあることのひとつ。
F I N

トップにもどる