トキオの顔


by てんてんこまる
 トキオのかんしゃくもちには僕らは、悩まされっぱなし。
 トキオがかんしゃくを起こすことといったら、きりがない。なんでも嫌いな
んだトキオは。だけど、そんなトキオの顔を僕らは愛さずにはいられない。
 ある朝、トキオがとっても晴れ晴れしい顔でやってきた。僕らは、なんだか
嬉しくなって、みんな、そわそわしてた。それで、ばかみたいに大声で笑った
り、妙に水ばかり飲んで、いろいろと、寄り道してしまった。そうしているあ
いだもトキオはずっとにこにこしていた。だから、僕ら、今日の帰りにはみん
なでお金を出しあって、パラパラの木ほどもある、わたあめを買ってやろう。
って話をしていた。
(でも、考えてもご覧よ。パラパラの木ほどもあるわたあめをつくりたきゃ、
パラパラの木よりも大きな機械がなくちゃいけないってことを、僕らは、思い
もしなかった。)
 パラパラの木の下を通りかかった時、何かがすごい勢いで追いかけてくるこ
とに気が付いた。白くて大きなトラだった。僕らは、くちぐちに何か叫びなが
ら、トキオを木に上にあげて、自分たちも急いで登った。(あの小さな牙は草
食性のトラだってことは、後で調べてわかったことだ。)
 トラは、5,6匹もいたかしら。そいつらは、木をぐるりと取り囲むと、
100メートル走のピストルがなった時みたいにいっせいに走り始めた。僕ら
が鈴なりになった木の周りを。
−ちび黒サンボの一場面だ−
 トラは、ぐるぐる回ってだんだん勢いを増してきた。トキオは、例によって
すでにかんしゃくを起こしていた。いつもより、ものすごい顔で、真っ赤にな
って、手がわなわなと震えていたよ。そうするうちに頭がくらっときたんだろ
う。トキオは、まっさかさまにおっこちた。僕らは、「あっ。」といったきり
だった。
 すると、トラたちは、なんだか、白い糸みたいになってきて僕らは、木の枝
でちょちょいと形にまとめあげた。2分とたたないうちにパラパラの木ほども
ある、わたあめが出来あがったってわけさ。
 その大きなわたあめが空にのぼってしまったので、僕らは、はっと我に返っ
てトキオを探した。日が暮れるまでトキオ探しは続いたけれども、(実際は、
半日も探したろう)トキオは見つからなかった。消えてしまったんだ。わたあ
めでべとべとになった手をなめてみたけど、トキオの味がしたかどうかは分か
らない。
 それから、僕らは、トキオと会うことは一度もなかったけれども、パラパラ
の木に登ってはよく、トキオの顔を思い出したりした。
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