サマーブランケット


by てんてんこまる
 かくれているのはだあれ?
 まるいはっぱのそのまたかげの、しげみの奥の、奥の奥。ああ、いた。よか
った。ああ、かわいい。あれは私の子供たち。かあさんですよ。ごはんをとっ
てきましたよ。あれま、大きな口だこと。ピークルクル。ピー、クルクル。わ
かってますよ。じゅんばんね。ああ、いそがしい、いそがしい。あれ、まあ、
丸いおめめが私を見つめてる。目が見えるのね。わかるのね。かあさんですよ。
ああ、かわいい。まっててね。いい子で、いい子でまっててね。かわいい、か
わいい子供たち。

 かくれているのはだあれ?
 私ですよ、おかあさん。深い深いやぶの中、それより深い奥の奥。ずっと見
つめていたんだよ。息を殺して、目を光らせて、じっとじっとしていたよ。あ
んたが一生懸命、育てていたけれど、ちっぽけな命だからね、たいした事はな
いのさ。それに、ひと飲みしてしまったからね。痛いことも、こわいこともな
かったんだよ。私がこの赤い目で見つめたら、観念して静かになったよ。また
来年、かわいいひなを育てておくれよ。それじゃ、私は行こう。ちょっと眠く
なったからね。

 かくれているのはだあれ?
 ああ、あれは、私のいい人。行ってしまう。行ってしまう。さようなら。

 ああ、そうだった。去年も同じだった。その前も、その前も、ずっとそうだ
った。同じ季節に、同じ人と恋をして、同じ所に巣を作り、同じような卵を産
んで、同じヘビに食べられ、あの人も行ってしまう。そして、ひとりぼっちも、
また同じ。
 とても疲れてしまった。もう、飛ぶのをやめたい。いったい私は、何だって、
こんなに飛んでいるんだろう。
 あの、サマーブランケットのところまで。そう誰かが、私を包んでくれて、
ずっと背中をさすってくれる。私は飛ぶのを止めて、気がすむまで休んでいる。
去年も、その前も、その前もずっと同じだった。
 気がつくと、眩しい夏の朝なのだった。
 夏の盛り、かくれているのはだあれ?
 サマーブランケットにくるまって。
 みんな、がんばれ、がんばれ。
F I N

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