ラムネ


by てんてんこまる
 海と空とがちょうど半分ずつになるように加減してその間をじっと見ていたら
ふと、ずっと離れたところに暮らしている2人の男の子達の気持ちが、手に取る
ようにわかった気がしたのです。

 1人は、遠い遠い砂のお国のちっぽけなテントに暮らしていました。毎日、大
人達の仕事の手伝いをし、大人達と食事をして、独りぼっちでおうちに帰る時、
ふと、自分と同じように独りぼっちの少年が、遠い遠い氷のお国にいるのではな
いか、と思いました。
 もう1人、遠い遠い氷のお国で暮らす少年には、家族がいましたが、この家族
は自分の本当の家族ではないのではないか、と考えていました。家族そろっての
退屈な食事の時、ふと、自分のように独りぼっちの少年が、遠い遠い砂のお国に
いるのではないか、と思いました。
 2人は、お互いのことはこれっぽっちも知りませんでした。ただそう、思った
のです。その考えは日増しに強くなってくるのでした。(どんな子なんだろう。
歌は好きかな。笛も教えてやろう。らくだの乗り方も教えてやる。僕、何だって
教えてやる。スケートはできるだろうか。スピードを競争して遊ぶんだ。僕は負
けたってかまわない。夜は、いろんな話を話をしてくれるだろう。あぁ、僕とて
も楽しいな。)そんなことを考えて、2人はそれぞれ眠りに就くのでした。
 そして、2人が出会う'時'が訪れました。
 海の真ん中にできることになった、人工のリゾートアイランドの、人工の砂浜
を広くするための砂を運ぶ仕事を、そしてその砂浜で売るかき氷の氷を運ぶ仕事
を、それぞれが手伝って、遠く遠くお船に乗って、2人は、その島にやってきた
のでした。
 そして2人は、この島の新しくできたぴかぴかのコインを、それぞれ小遣いに
もらいました。赤いテントのお店では、異国の飲みものが、売っていました。ガ
ラス玉が瓶のふたになっていて、おじさんが何か簡単な道具でふたを開けると
シュッと音がして、ガラスの玉は瓶の中に入るのでした。
 コロコロと音がするその瓶を、おじさんは2人に渡しました。その時2人は、
同じ形のコインをおじさんの手のひらの上に置いたのです。でもその時2人は、
とても喉が渇いていました。それに飲み物を買いにきた同じ年頃の少年はたくさ
んいたのです。2人はお互いのことに、気がつくことはありませんでした。人生
とはそんなものです。
 その飲み物は、なんだか胸が詰まって涙が出そうになったりしましたが、とて
もおいしいと思いました。飲み終わった瓶は、お店に返して、代わりに小さな菓
子をもらうこともできましたが、2人ともその瓶を持って帰ることにしました。
ただコロコロと音をさせて楽しんだり、たまにお水を入れて飲むこともありまし
たが、そのうちなくしてしまいました。
 それから2人が出会うことはなく、それぞれ大人になって、それぞれの人生を
それぞれ過ごしました。それでおしまいです。

 こんどうまれかわるとき、2人は兄弟になるのです。2人は、かわいらしい小
犬を飼って、それはそれは仲のよい兄弟になるのです。それでもよかったのです。
 2人はそれで幸せでした。
F I N

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