ネックレス


by てんてんこまる
 彼がそのネックレスをくれたとき、わたしは、たいそう喜びました。
 小さな青い石がついており、細い細いチェーンは、わたしの鎖骨の真ん中で
つけているのかわからないぐらいのもので、彼が言葉少なに手渡してくれたそ
れは、何の包みもされておらず、握りしめていた彼の手の熱で暖かく湿ってお
り、わたしは大好きな彼のその大きな手に口づけて、「ありがとう。あいして
いるわ。」と言ったのです。
 次にあったときも、彼はネックレスをくれました。少しとまどいましたが、
前のときよりも小さな石が3つ並んでいて、金と銀の縁飾りがとても美しいそ
れは、わたしの気に入ったので、彼が、わたしの首なんてしめるのは何の雑作
もないような、その太い腕を、わたしの首に回して、留め金をつけてくれたと
き、わたしも彼の首に巻き付いて「ありがとう。とても、あいしているわ。」
と言いました。
 次にあったときも、その次にあったときも、彼はネックレスをわたしに贈り、
私たちが週末のデートから、毎日のようにあわなければいられないほど、愛し
合って行くにつれ、わたしのアクセサリーケースの中は、増えてゆくのでした。
 初めてもらったネックレスは、うれしくて毎日つけていました。
 2つめをもらったときは、毎日かわりばんこにつけていました。
 3つめにもらったものも、毎日かわりばんこにつけていましたが、前の日に
どちらをつけていたのか忘れてしまい、2日続けて同じものをつけてしまった
りし、そして4つめのときには、お気に入りのものとそうでないものができま
した。
 それでもわたしは、うれしかったし、彼を大好きでした。ネックレスについ
ては、さりげなく聞いたこともありましたが、「似合うから。」とか何とか言
って、それ以上は、聞けませんでした。
 そして、わたしが、11こめのネックレスをもらう待ち合わせ場所に行くと、
ドライブに行こうと言った彼の、ミニクーパーがとまっていました。彼が大き
いからだで、乗っているミニが、わたしは、大好きでしたが、彼は少し大きく
なりすぎていました。
「このごろ太ったんだ。」
彼は言いましたが、わたしの頬を包んでいた、優しい大きな手が、今では、わ
たしの頭をひねりつぶせるくらいの大きさになっていました。そして、その手
のひらには、しわの中に隠れてしまいそうな、きゃしゃなネックレスが握られ
ているのでした。
 何回かデートを断って、次にあうとき、やっとの事で、ミニの中からでてき
た彼は、わたしの首にネックレスが、ないことに気がつくととても悲しそうな
顔をしました。
「わすれてきたの。」
彼の目から、小さな涙がこぼれたように見えました。でも、それは、わたしの
手のひらに落ちて、ネックレスに変わっていました。彼の手にもネックレスは、
握られていました。
 わたしは、彼を抱きしめました。彼は小さくなって、小さくなって、小さく
なって、小さくなってそして消えてしまいました。
 

 誰だって、好きな人に首輪をつけていたい。大きくなりすぎた思いを、小さ
なプレゼントにして、贈る。好きだ、こんなに好きだと。
 彼は今、わたしの首に巻き付いて安心して眠っているのです。
F I N

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