レター


by てんてんこまる
 僕の仕事は、この飛行機で世界中を飛び回り、依頼された大切な届けものを
することだ。ある時、僕の自慢の飛行機が君の山の上を飛んでいたとき、見上
げた君のぱちぱちとしたまつげを見てしまって僕は、思わず寄り道。危うく大
事な仕事を忘れてしまうところだった。
 僕ら一目で恋に落ちてしまったね。僕が空へ帰らなければならなないと言っ
たとき、君のまつげが濡れて光って僕はどうしても君を連れて行きたかったけ
れど、君にも大切なお役目とやらがあったし、僕の飛行機も一人乗りだったし、
それで僕が苦手だった手紙なんかを書いて、君と連絡を取り合うようになっち
まった。でも僕は実はこのところ、手紙を書くのが大変上手くなってきたと思
っている。僕からの手紙を、山のてっぺんの君んちの小さな畑にパラシュート
をつけて落とすとき、僕の飛行機の音を聞きつけて走り出てくる君をとても愛
しい気持ちで見ているよ。
 今回の僕のお届けの仕事は、とても暑い国の、大きな農園の持ち主が南極の
エスキモーの子供たちに、ひまわりの花を贈ると言うものだった。エスキモー
の子供たちはみんな、綿毛のような帽子をかぶっていて、僕が届けたひまわり
をはじめは、眩しいものでも見るみたいに目を細めて見ていた。実際、それは
太陽の光をまだ覚えているみたいにぴかぴかしていて、触ると少し暖かかった。
 そのうち女の子は座布団のようにして、その上にちんまりと座ってみたり、
男の子たちはそりの様にして氷の山から滑り降りたりして遊び始めた。すごく
小さな子には、お昼寝用のベッドになっていたんだけど、まるで花の中から生
まれたお姫様みたいに可愛いらしい寝顔だった。
 僕は、すごく熱いお酒をごちそうになると、眠くなったので、お姫様の真似
をして、ひまわりを枕にちょっと横になった。とても、熱い、乾いた空気のに
おいのする枕だったが、ずいぶんと長い間眠ってしまった気もするし、ほんの
一時間ぐらいだったような気もした。なにしろ、南極には夜がないから時計も
ないわけで時間がどれくらいたったかなんて良くわからない。子供たちも遊び
たいだけ遊んでいいんだ。そして南極の人たちはいつのまにか、歳をとって大
人になっちまうけれど、本当は遊びたくてうずうずしている大人がいっぱいい
たさ。このままいたら、僕もすぐにおじいさんになってしまうような気がした
よ。
 その時もらったひまわりの種が一緒に入っているから、どうか君んちの畑に
まいて育ててください。とても大きくなるらしいから、君が大事に育てて僕の
飛行機に届くくらい大きくなったら、君、のぼってきてくれるだろ?
 早く君の顔が見たい。
F I N

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