クマザサの実


by てんてんこまる
 クマザサをポッケにつっこんで、これからの長い道のりのことを考えながら
歩いていると、子ウサギが寄ってきて、僕のにおいをふんふんとかぎながら、
「キミ、クマザサの実を持っているの?」
と聞いたので、
「あぁ、これだろう。クマザサの実じゃないよ。葉っぱを持っているだけだ。」
と言って葉っぱを渡してあげると、
「葉っぱだけでもいいや。こうやると、ホラ、耳がかっこよくなった。」
と、クマザサの葉っぱを耳のところにくっつけて、ピョコリンと跳んでみせた
ので、僕はかわいくなって、
「それあげるよ。一緒にくるかい?」
「うん。」
子ウサギは、クマザサの耳が取れないように気をつけながら、ピョコリンピョ
コリンと後をついてくるので、僕は歩調を少しゆるめて歩きました。
 しばらく行くと、今度は子ギツネが寄ってきて、
「キミ、クマザサの実を持っているの?」
「いや、葉っぱだよ。」
と、答えると、
「そうか。でもイイヨ。ホラ、僕のしっぽ長くなっただろ。」
子ウサギとみつめあい、ワハハハと笑いながらついてくるので、僕はますます
かわいくなって、ふり返り、ふり返り、歩きました。
 またしばらく歩いていくと、人間の子どもが
「キミ、クマザサの実を持っているの?」
と寄ってきたので、僕はなんだか悪くなって、
「ごめんね。葉っぱだけなんだよ。」
と謝ると、
「かっこいい!剣みたい。お兄ちゃんを守ってやる。」
なんて言うので、僕は、ももたろうにでもなったような気分になりました。
 少し遠回りでしたが、クマザサの原っぱへ寄っていくことに決めて、歩い
ていきました。ですが、やはり子どもらの足には、少し遠すぎたようで、そ
のうち、子ウサギが、
「おなかが空いて、もう行かれない。」
と言いました。高いところになっていたあけびをもぎってあげると、小さな前
歯で少しずつかじってかわいらしく食べました。すっかり食べ終わると、
「ありがとう。」
をきちんと言ったので僕はそのことを誉めました。
 また少しすると、今度は子ギツネが
「のどが渇いて、もう行かれない。」
と言うので、沢に下りて、手に水を汲んできて飲ませました。手のひらをなめ
るのがくすぐったかったけれど、最後には自分の口の周りをなめて、
「こんなにおいしい水、飲んだことない。」
なんて、お世辞を言ったのがおかしくて、僕が笑うと、みんなもげらげら笑い
ました。
 人間の子どもが
「足が疲れていたいから、もう行かれない。」
と言った時は僕も疲れていたけれどおんぶしてやりました。2〜3分もすると
「自分で歩ける。」
と1人で歩きました。
「どうしてみんな、クマザサの実がほしいの?」
「おとさまと、おかさまに会うために。」
人間の子が答えると、子ウサギは目を真っ赤にしながら、子ギツネは鼻をつま
らせコンコンとしながら歩いています。人間の子も、唇を強くかみしめ赤くな
っています。あけびをとりとり、沢から水を汲んできては、後はもう歌を歌っ
たり、おどけてみせたりしながら、いよいよクマザサの原っぱへつくと、果た
してクマザサの実はありました。
 小さな小さなその実を小さな小さな彼らが食べました。
 子ウサギは今まで越えてきた山をたった2蹴りで飛び越えて、行ってしま
いました。
 子ギツネはしっぽをぐるぐると回すと土けむりを上げ、一瞬で、行ってしま
いました。
 人間の子どもは、剣を振り上げると、鎧を身に着けた立派な騎士の姿になり
馬に乗って、行ってしまいました。

 僕は、胸をはって、前を向いて歩いて行きました。
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