ダリア


by てんてんこまる
 赤い色が、僕の側にやってきて、小さなハートになって、いくつもいくつも
僕の周りにふわふわと浮いていたので、ほかの色は羨ましがっていた。

 そのハートをいくつか集めて袋にとっておいたら、何日かして、それは花の
つぼみになった。鉢に植え替え、水をやって育ててみた。赤いダリアだった。
大きな花が咲くと、真ん中に目玉があるのだった。
 奇怪ではあったが、よく見ればかわいらしくもあり、しばらくすると、感情
が伝えられることがわかった。話すことはできないが、僕の言うことは大部分
わかるらしい。わからない時は、目をパチクリさせる。
 ダリアはまた、僕の行くところならどこへでも行きたがった。僕は、時々ス
ケッチに出掛けたので、その度に大きなダリアの鉢を自転車のかごに乗せてい
かなければならなかった。僕らは、毎日のようにスケッチに出掛けたが、絵を
描かずに景色を見ているだけの日のほうが多くなった。

 ダリアが化け物だということは、わかっている。でも、ダリアは、僕が、訳
もなく泣けば、あの大きなひとつのお目目から、大粒の涙を一緒に流してくれ
る。僕のことを、好きだと感じる。僕を食べたいのだろう。もし、ダリアがこ
のまま大きくなったら、僕のことをいつかきっと食うだろう。僕を食って、ダ
リアはますますきれいになるだろう。赤い花びらは、鮮やかさを増すだろう。
そうして、何人もの人間の男を誘惑するかもしれない。僕は、人間を食うよう
になったダリアのことを良く考えた。
 ある朝起きると、体中に赤いものがたくさんついていた。いつかのハートか
しらと思って、よく見ると、それはダリアの花びらなのだった。ダリアに食わ
れるより先に、僕はダリアになってしまうのかもしれない。いろいろな妄想が、
日に日に頭をもたげてくる。
 しかし、冬が近づくにつれ、ダリアの色が薄くなってきた。ダリアの寿命は、
何日ぐらいのものなのだろう。早く僕を食ってくれないかと、思っているうち、
ダリアは出掛けることを嫌がるようになった。僕は、泣いて、僕のことを食っ
てくれるように言ったが、ダリアは目を半分伏せたまま、何も答えなかった。
 次の朝、目覚めると、ダリアの姿はなく、もう冬なのだった。
 僕は、ダリアになれず、食われてしまうこともなかった。

   あの小さな星の王子さまは、花に恋していたのでしょうか。
F I N

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