彼女の足のうら


by てんてんこまる
 僕は、女の子と歩いていました。
(おや、この女の子は誰だろう。)

 僕は、知らない女の子と歩いていました。オレンジ色ともピンク色ともつか
ない色のスカートをはき、青色とも緑色ともつかない色のハンカチーフを髪に
結んで、小さな手足のまるでかわいらしい様子をしておりました。ただ、足だ
けは靴を履かず、靴下も履かず、素足で歩いているのでした。彼女が歩くたび
に見える足のうらは見ているうちに良い気分になるので、僕はそれを見たいた
めに少し後ろを歩いており、どうやら僕は彼女に恋をしているらしいのでした。
 僕は彼女の足のうらをもう少し見ていたかったけれど、素足で歩いているの
はちょっとかわいそうだと思いました。僕はスニーカーをはいていました。
 それで後ろから声をかけました。
「僕のスニーカーを貸そうか。」
「いいの。こうして歩いているとひんやりして気持ちがいいの。」
彼女がまるではっきり言ったので、僕はびっくりしてしまって、僕は困ってし
まって、そうして彼女のひらひらするスカートのすそを眺めていました。
「僕、僕は、靴を脱いで歩こう。僕も足をひんやりしたい。」
そうして、今度は、彼女と並んで歩きました。すると彼女の足はほんとに小さ
くって、やはり僕は彼女の足から目が離せないのでした。
 僕は何か話しかけようと思って、
「後どれくらいだろうね。」
「もうすぐよ。」
僕は言ってみて始めて、僕らがどこへ向かって歩いているのか、さっぱりわか
らないことに気づきました。
「ねえ、僕たちはどこへいくの?」
「もうすぐよ。」
彼女は僕の手を握りました。それで僕は、彼女も不安なのだということがわか
りました。口をきっちりと結んで、こわばった手足のまま、きしきしと冷たい
土を踏みしめて歩いていたのでした。
「僕はね、今度生まれ変わるときは小さな靴になろうと思う。」 
できるだけ明るく言いました。彼女は、こっちを見てちょっと微笑んで、でも、
彼女らしい真剣な顔で、
「私は、天使さまになりたい。」
ふと向かうべき場所がどこなのか分かったような気がしました。
「ほら、見えてきたわ。」
彼女が言ったとたん、何もなかった場所に丘が見えました。
「あの丘ね。」
「あの丘だ。」
すると、僕は、小さなかわいらしい靴になりました。天使さまになった彼女は
その靴を履きました。それは、天使さまの足にぴったりで柔らかく、とても歩
きやすそうでした。
 少しの間、靴の調子を確かめた後、天使さまは羽をぴくぴくっと動かして風
にのって走ってゆきました。
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