カエル


by キキ
 夕暮れ。
 田んぼのカエルがいっせいに鳴き出す。
−ギエルギエルギエルギエルギエルギエルギエルギエルギエルギエルギエル−
うるさくはないけれど、恐いのは、カエルたちがいっせいに静かになる時。し
ばらくすると、また鳴き出すのだけれど。何も聞こえないその時、アタシは息
を殺して、耳を澄ます。カエルたちも同じようにしているに違いない。カエル
大魔王がやってくるから。
 教えてくれたのはとなりのじいさんだ。
「また、カエル大魔王がやってくるよ。ほら、おまえたちはやく家に帰んなさ
い。」
じいさんの家には、ブンチョウがいなくなってからも、時々見に行っていた。
じいさんはアタシを見つけると、いつもおいでおいでをした。はじめは、いや
な感じだった。毎日少しずつ、近くに寄っていった。ちくわが皿の上において
あった。
「おまえさんのじゃ、食いなさい。」
じいさんが言った。
 そのうちじいさんの手からもらって食ってもいいかなと思った。
 近所のバカネコ達も一緒に集まるようになった。
 カエル大魔王は、いつもは静かに通り過ぎるだけなのだが、カエル大魔王が
大暴れをするとすごい。大きな音がして、アタシは恐くて逃げ出したくなる。
カエルたちは調子に乗って、いつもより大きな声で
ギエルギエル、ゴゴゴゴロゴロゴローン、ドロドロドーン、ギエーギエー
それに混ざって、「キキ、キキ。」小さな声で、アタシを呼ぶ声までするのだ。
 恐い恐い恐い恐い、ソロソロ歩くとどこまでもついてくる。オネーチャンは
アクセスするのをやめて、テレビを消して、平気なふりをして本を読んだり、
何か食べたりしている。
 カエル大魔王が行ってしまって、ほっとして眠りかけていると、「キキ、キキ。」
とアタシを呼ぶ声がするので、びっくりして振り向くと、アマガエルの子供が
いた。アタシを呼んでいたんじゃなかったんだ。鳴く練習をしているのだった。小
さなお口で、小さな目玉を一生懸命見開いて、「キキ、キキ、キーキ、キーキ
ー。」と鳴いていた。
 アタシは、食べようとしたけど、青臭くて、まずくて、食べられなかった。
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