ハゲ


by キキ
 「オネーチャン、開けて。」
と頼んだら、お外は雨が降っていた。
 お勝手口のドアを開けてもらっても、お2階の窓から出ようと思っても、ダ
メだった。オネーチャンは、くすくす笑っている。オネーチャンは、最近、ア
タシに、意地悪ばかりしている。毎日、雨を降らせて、あたしがお外に遊びに
行けないようにしたり、この間も、強くアタシのお手手を押さえて、アタシの
大嫌いな車に乗せて、大嫌いな「びよいん」に連れていった。
 そこにいる、大きなお手手の「いしゃさま」のことは、少し好きだけれど。
その大きなお手手がアタシの首のところをつかんで「ちょうしゃ」を2回もし
たので、びっくりしたり、痛かったので、アタシは「ぎゃん。」と鳴いた。
 おうちに帰ってからも、オネーチャンはアタシのおくちを無理矢理にあけて
何か飲ませようとしたり、べたべたする苦いものをくっつけたりするから、ア
タシは隠れることにした。しんとしたところにじーっとしていると、時々、オ
ネーチャンのお顔を見たくなるので、カーテンのかげに隠れてオネーチャンの
ことを見ていると、オネーチャンにはすぐにわかってしまう。
 オネーチャンがやわらかく、笑う。オネーチャンどうして、アタシに意地悪
したの?あたしが「ハゲ」だから?
 近所のバカネコがアタシのご飯をたべようとして、アタシが怒って追いかけ
たら、アイツ、アタシのことひっかいたんだ。少し遊んだら、あげてもいいか
なと思ったのに。それで、ひっかかれたところがかゆくって、ずっと掻いてい
たら、横のおなかのところの毛が抜けてしまったの。
 オネーチャンがそれを見て「ハゲ。」ってアタシのこと言ったの。「アラ、
たいへん。」とも。
 隣のじいさんのことを、みんなが「ハゲ屋さん。」と、呼んでいるのだと思
っていたら、「萩谷さん。」だった。でも、じいさんのハゲの方がひどいから
じいさんも「びよいん」に連れていかれるかもしれない。もし萩谷のじいさん
が「びよいん」に行って、アタシもまた「びよいん」に行ったら、今度は「い
しゃさま」を猫パンチと猫キックで攻撃して、一緒に逃がしてやろうと思う。
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