by キキ
オネーチャンが泣いている。
昨日も、その前も、ずっと泣いているから、アタシは最近お外で寝たりする。
オネーチャンが泣くってことは、アタシとかがなくってことと違う。よくわ
からないけれど、オネーチャンがずっと泣いているのは、つまらない。
オネーチャン、泣かないで。オネーチャンがもし泣かないでくれるなら、ア
タシはあの白い小鳥をオネーチャンにあげてもいい。隣のじいさんちの籠の中
にいつもいる。ブンチョウっていうんだよ。じいさんは、「ピー子や。」とか
「ピーちゃん。」とか呼んでいるけど、それはナマエで本当は、ブンチョウっ
ていうんだ。
アタシは、隣のじいさんちで見つけた時から、ブンチョウが欲しくなってし
まって、ちょくちょく見に行って、チャンスを狙っている。そして、もし、ア
イツが逃げないでいてくれるなら、アタシはしっぽで遊んでやったり、おなか
のあったかいところで寝させてやったり、歩く時は、背中に乗せてやったりし
てもいいと思っていた。もし、逃げようとしたら、その時は、つい食べちゃう
かもしれないけれど。
あのブンチョウをあげたりしたら、オネーチャンはきっと喜ぶだろう。あの、
白くて小さくて、動き回って、ピリピリリンと鳴く、あの姿を見たら「あら、
まあ。」とか言って、コロコロと笑うかもしれない。
オネーチャン、オネーチャンにあげるよ。
今日も、ブンチョウの様子を見にじいさんの家へ行くと、四角い籠の中にブ
ンチョウはいなかった。じいさんが動かなくなったブンチョウをティッシュに
包んで土の中に埋めていた。雪やなぎの下だった。じいさんは泣いていた。人
間は、ずっといたものがいなくなってしまうと泣くんだ。じいさんが、あのい
つも恐い顔で「しっ、しっ。」と言っていたじいさんが、おいでおいでなんか
するからアタシは「ばかっ。」って言って、しらんぷりして帰って来てしまっ
た。
オネーチャン、お外でまた草むしりしよう。アタシがじゃまをして怒ったオ
ネーチャンが、アタシの頭をぶってもアタシぜんぜん平気だから。それで一緒
にヨーグルトでも食べようよ。アタシは、オネーチャンが食べ終わった後のカ
ップに少しついているのをちょっとなめさせてくれるまで、おりこうして待っ
ているから。アタシは、いなくならない。絶対にいなくならない。いなくなら
ないからね。
アタシも、オネーチャンがいなくなったら、人間みたいに泣くのかもしれな
いと思ったら、本当に鼻がむずむずしてきて、「くしゃん」とくしゃみが出て、
ベットの足に頭をぶつけてしまった。
それを見たオネーチャンが、笑った。
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